K男さんは東北の出身ですが、関西の大学にすすみ、就職してからは海外赴任も多く、東北にある実家には、めったに帰って来ることができません。
それでもなんとか、年に1度、お正月ぐらいは休みを利用して帰って来れたのですが、ゆっくりと話す時間もないまま、また仕事に戻る、といったことを繰り返していました。
実家にいるのは母親のT子さん一人。
K男さんは、一人で暮らすT子さんのことが気がかりではありましたが、「私の事は心配いらないから、仕事がんばりなさい」というT子さんの励ましもあり、仕事に打ち込む毎日でした。
T子さんが病でこの世を去ったのは、とても急なことでした。知らせを聞いて駆けつけたK男さんでしたが、T子さんは息を引き取ったあとだったそうです。
こんなに早くお別れの日が来るとは思っていなかったK男さんは、心の準備などできてはおらず、病院から紹介された葬儀社に、任せることにしたのです。
葬儀社は手際よく、迅速に事をすすめていき、通夜も告別式も、すべて葬祭会場を使って行うことにしたのです。宿泊もできる会場だったので、遠くから来た親戚は、皆ここに泊まっていて、実家にいた時間はほとんどなかったそうです。
葬儀は、滞りなく、静かにすぎていき、すべてを終えたときに一人のおばあさんが声をかけてきました。
「K男ちゃん、久しぶりね。立派になって…T子さんの自慢の息子だよ。でも、“お念仏”できなかったねぇ。私とT子さんはご近所の“お念仏”のとき、いつも一緒だったから…なんだか寂しいねぇ」
このあたりの風習のことなのですが、早くから家を離れていたK男さんには経験がなく、病院ですぐに葬儀社と話しをつけてしまったため、すべて葬儀会場の方に任せてしまい、風習のことまでは取り入れていなかったのです。
葬儀社の側で気をつける事だと思うのですが、K男さんと話していれば、長い間ふるさとから離れていたことはわかるはずです。T子さんに限らず、長年そこで暮らしていれば、となり近所のつきあいも多いし、郷土愛も深まっているでしょう。
葬儀の際には、自分を育ててくれたふるさとの皆さんと心からのお別れができるように、そういった点にも気を配っていきたいものです。

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