「ねえノブ子、少しは話しを聞いてちょうだい。」
「お母さんたら、またその話し?お葬式の話しなんてやめましょうよ、縁起でもないわ」
久々に里帰りしたノブ子さんは、お母さんが葬儀について話すことが、イヤでたまりませんでした。「イヤ」というより、お母さんが死んでしまうなんて考えたくもない…と言ったほうがいいのですが。
ノブ子さんに限らず、「葬式の話しなんて…」と言って、嫌がる方はたくさんいらっしゃいます。でも、何の話しもせずに突然、葬儀をとりおこなうということは、後々くやむことが多く残ってしまうのです。
突然の出来事で葬儀社を頼むこととなれば、当然まったくの初対面の社員とあれこれ打ち合わせをするようになります。そのうえ時間に追われますから、費用をはじめ、細かい点までは気が回らないことが多くなってしまいます。
葬儀は、人生最後のお別れの儀式です。
穏やかに、そして心静かにお別れができるように、気になることや、こうして欲しいといったことについては、話しておくことも良いのではないでしょうか。
「ノブ子、お母さんにもしもの事があったら、このノートを見てね。ここにしまっておくから。」
「お母さんたら…。」
ノブ子さんがそのノートを見る日は、突然やってきました。お母様が事故で亡くなられたからです。
表紙に「ノブ子へ」と書かれた大学ノートには、お母様の優しい気配りがビッシリと詰まっていました。
ノートに書かれていた内容は…。
依頼してある葬儀社の担当者名、葬儀内容の希望をはじめ、家の宗教やお寺のこと、葬儀の後に必要な手続きのこと、預金や不動産等のこと、連絡してほしい知人・友人、町内会のこと、趣味で入会している俳句の会のこと、それに「遺影に使ってほしい写真」まで用意してありました。
その写真を選んだ理由に「ノブ子と一緒に行った、一番たのしい旅行だったから」と書かれていたのを見たとき、ノブ子さんは、涙があふれてきました。
「お母さん、ありがと…助かるよ。生きている時に、ちゃんと話しておけば良かったね。」

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